自動車カルチャー誌『Octane Japan』に、ワク井商会の”第二創業”をテーマとした取材記事を掲載いただきました。館長・若林恭平が、クラシック・ロールス・ロイス&ベントレーの継承と、これからのワク井について語っています。オクタン・ジャパン編集部のご厚意により、本記事を許可を得て転載いたします。

クラシック・ロールス・ロイス&ベントレーの専門店として、また私設のミュージアム「WAKUI MUSEUM」を擁することでも名高いワク井商会がいま、第二創業へと取り組んでいる。単にクラシックカーを販売、整備するだけでなく、お客様のカーライフをトータルでサポートする企業への変革に取り組む、若き館長に話を聞いた。
本誌読者ではおそらくその名を知らぬ人はいないであろう、日本を代表するクラシック・ロールス・ロイス&ベントレー専門店「ワク井商会」。創業は1980年代。もともとそうしたクラシックモデルの愛好家であった涌井清春氏が時計メーカーのセイコーに約 15年間勤めた後、自宅の一室をオフィス兼ショールームとしてクラシックカーの輸入販売整備を始めたことに端を発する。
ワク井商会は英国の名車を輸入販売するだけではなくミュージアムでは未来へ継承すべき車文化をていねいに展示したり、ファクトリーではレザーやウッドを司る熟練工が匠の技をもって修復整備を行ったりと、日本のみならず世界に名を馳せるコレクティブショップとなっていく。その後ワク井商会はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社となり、英国正統派クラシックカー領域の先駆として、さらに脚光を浴び始めていた。
同社はいま第二創業期を迎えている。2024年に新館長/セールスマネージャーに就任したのが若林恭平さん。まだ30代前半というからまさに若者の車ばなれという言葉が使われるようになったジェネレーションY世代だ。聞けば音楽学校出身でアンティークのギター趣味などを経て、だんだんとクラシックカーにも興味が湧いてきた。20代ですでにモーガン4/4を所有するほどのエンスーに成長した彼は、究極の英国車の世界を覗いてみようとワクイミュージアムを訪れ、それが入社のきっかけとなった。2024年に館長に就任するのだが、特にこの3年間はCCCのカーライフ事業全般の統括を担う、ワク井商会社長である久保田佳也氏との二人三脚により、ワク井商会をバランスよく切り盛りしながら経営にも関わるようになってきた。これはまさに次世代への事業継承、文化継承を意図したものだ。

「クラシックカーというと、どうしてもお客様の年齢層が高くなる傾向にあります。しかし、最近はネオクラシックという言葉がよく使われるように比較的あたらしく、価格的にも手頃な車が若い世代にも注目されるようになってきました。そういう車をきっかけに古いモデルにも興味をもってもらい、少しずつでもクラシックカー趣味の裾野を広げていきたい。そのためにはSNSを活用したり、誰でも気軽に参加できるイベントを開催してみたりと、いろいろなことに挑戦してみようと思っています」
これまで自らも3台のクラシックモデルを乗り継いでおり、現在は1928年型のロールス・ロイス20を所有する。これはいまに続くブラック・バッジの端緒となった名車である。SNSを通じて楽しさはもちろんのこと、修理なども苦労話も赤裸々に明かしている。そうした甲斐もあって若いフォロワーも確実に増えているという。
「オーナーとしての経験があることでお客様の目線に立って対話ができますし、各モデルのウィークポイントなどもより深く理解できます。私自身が年齢的に若いことも共感を覚えてもらうひとつのきっかけになればと思います。先日も大学を卒業したばかりのお客様が、1995年式の限定車のフライングスパーを買ってくれたり、それこそまだ免許をもっていない中学生や高校生が SNSを見たといってミュージアムに遊びにきてくれたりすることもあります。当社のミュージアムは入館無料ですし、他の博物館との違いはロープなどで囲っていないこと。できるだけ近くで見てもらって、タイミングがあえばシートに座ってもらったり、天気が良ければ近所をぐるりと1周走行してみたり、実際にクラシックカーを体感してもらえるような時間作りを心掛けています。もちろんビジネスではありますが、そのまえに自分が好きなものを少しでもたくさんの人と共有したいという、そんな思いで取り組んでいます」







そしてクラシックモデルを販売する上で、若林さんがもっとも気を配っているのが整備のことと話す。
「クラシックモデルですから故障することはもちろんあります。でもせっかく納車したのに故障続きでずっと工場に入っているとか、壊れたらまた預かっての繰り返しのような、そんな状態にはしたくない。もちろん50年も100年も前の車もありますから、100%を保証することは不可能ですが、できるだけ想定しうるネガティブな部分は事前に確認をして、いまできるベストな状態で納車しようと心掛けています。古い車は納期の心配もつきものです。たとえばレストアというと数年かかるのが当たり前で、下手をすれば数年間は手を付けていなかったってなんてことも結構あると聞きます。でもそれではお客様の環境も気持ちも変わってしまうことがあっても当然です。実際に我々がいま行っている代表的なレストアは、昨年の6月に開始して、今年の3月に納車予定としています。約9ヶ月で内装も外装もすべてを正しい状態に仕上げます。しっかりとスケジュールを組んで、効率的に作業を進めれば納期を守れるということを証明したいと考えています」





ひとくちにレストアといっても、さまざまだ。オリジナルに忠実にできるだけ現状を維持したい人もいれば、レストモッドのようにモダンな要素を取り入れたという要求もあるだろう。
「基本的にはオリジナルの状態を維持することをおすすめしますが、お客様によってはいろんな要望が寄せられることもあります。最近ではドリンクホルダーをつけたいという要望も多くて、それも時代の流れだと思いますし、文化を引き継いでいくために必要な工夫ということと考えて、そこはうまく対応していきたいと思います」
この日、ファクトリーでレストアされていたファントムⅥの後席用のウッドパネルには、まるで純正品であるかのように充電用のUSBポートが埋設されていた。オーナーのお子さんのリクエストによるものという。もしオリジナルに戻したいという要望があればそれも可能というから、さすがの匠の技である。
古い車の場合、部品調達のことが気になるがそこに関する心配も必要ないという。
「ロールス・ロイスとベントレーでは古いモデルであっても基本的に新品のパーツを作ってくれています。もちろん100%ではありませんが重要な部分はすべて用意してくれており、早ければ3日で日本に到着することもあります。無いものも定期的にイギリスに行って仕入れたりしますし、最近はついでに古いモデルカーをたくさん買ってきたら、それがとても好評でした」


ファクトリーにはメカニックだけでなく、内装や外装などワク井商会ですべて完結することを可能とする職人と設備が揃っている。気になるのは技術の継承だが、そこでも若い人材育成が行われているという。
新卒で入社し2年目の東海林諒音さん。ホンダの整備士学校を卒業し、一級整備士の資格をもつ。古い車の整備の道に進もうと思ったきっかけは整備士学校でホンダ S800をレストアする授業をうけたことだったと話す。いまは古い英国車に囲まれて毎日が楽しいと目をキラキラさせていたのが印象的だった。







最後に若林さんはこんな話をした。
「うちのお客様で、数年前にアズールを購入いただいたお客様がいました。それがきっかけとなり、さらにどんどん古いモデルに興味をもたれるようになって。最終的に1948年のシルバーレイスを買ってくださったのです。そうしたら、そのシルバーレイスがとても気に入られたとのことで、ゴルフの練習に行くのにも毎日のように使っていらっしゃる。そういう方がひとりでもいらっしゃるというだけで「ロールス・ロイスってカッコいいね、普通に使えるんだね」という素敵な情報が広がっていく。もちろんロールス・ロイスやベントレーは気品のあふれる特別な車ではありますが、一方で日常の生活を彩るものとして受け継いでいければと思います」
ワク井商会はロールス・ロイス&ベントレーを中心に展開をしているが、これからはそれ以外の車にも対象枠を広げていくという。若き館長のあらたな挑戦に期待したい。
株式会社ワク井商会
ミュージアム 〒347-0010 埼玉県加須市大桑2-21-1
ファクトリー 〒347-0015 埼玉県加須市南大桑3748
TEL:0480-65-6847 FAX:0480-31-9320
MAIL:wakabayashi@wakuimuseum.com
ホームページ:https://www.wakuimuseum.com/
文:藤野太一 写真:オクタン編集部
Words:Taichi FUJINO Photography:Octane Japan
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